寝ても覚めても

加藤和樹さんをひっそり応援中

【感想】ミュージカル「キングアーサー」

ミュージカル「キングアーサー」(2023年版/オ・ルピナ 演出)

2023年1月17日~2023年3月5日(東京・高崎・兵庫・愛知)

中世ヨーロッパで親しまれ、現在も様々な創作物においてその名を馳せている「アーサー王物語」。「キングアーサー」は、その「アーサー王物語」を基盤として作られた、フレンチ・ロックミュージカルです。日本で上演されるのは今回が初めて。

 

音楽・脚本・歌詞を手掛けるのは、ミュージカル「1789-バスティーユの恋人たち-」でお馴染みのドーヴ・アチア氏です。

かつて1789にドハマりしたシトワイヤン(市民)としては元より期待値の高かった作品ですが、今回は楽曲に加えてストーリーやキャラクターの奥深さにも心惹かれ、気がつけば想定していた以上に通ってしまいました。

 

 

 

本当は東京公演終了時点で感想を纏めようと思っていたのですが、なんやかんやで先延ばしにしているうちに大千穐楽を迎えていました。

しかしまだ、本編配信が3/2526にございます!(しかもアーカイブ付き!)

ネタバレ全開で書いておりますので、配信が初見だよ〜という方は薄目でお読みいただくか、ブラウザバックでお戻りください。

 

まず、物語の筋を軽くですがご紹介します。

英国の偉大な王であったユーサーが崩御し、ケルトの民はサクソン人の侵攻による危機に瀕していました。新たに民を導くのは、前王ユーサーの血を引いた、公正で気高い人物でなくてはなりません。そこで前王に仕えていた魔術師マーリンは、神の声を聞くドラゴンの助言を頼りに、前王の私生児であるアーサーを次の王にすべく伝説の剣エクスカリバーを民衆の前で引き抜かせます。突如として神に、そして運命に選ばれたアーサーは慣れない生活を送りながらも良き王となるべく懸命に励みますが、様々な苦悩が彼を襲い続けます。

 

一方で、王になることを夢見ていた最強の騎士メレアガンは、エクスカリバーを引き抜けなかったばかりに王座や婚約者のグィネヴィア、名誉までをもアーサーに奪われ、絶望の淵に落とされてしまいます。

人生の光を失ったメレアガンは、公正な手順を踏まぬまま王となったアーサーへの恨みを募らせ、アーサーの義姉であるモルガンと共に復讐すべく立ち上がります。

果たしてそれぞれに待ち受ける運命とは……

という感じ(?)です。

(私のまとめ能力では全員のお名前を出せませんでした、不甲斐ない…)

 

演出家は、韓国でもキングアーサーの演出を手掛けられたオ・ルピナさん。

暗転が無く次々と舞台セットが転換するほか、シーンとシーンの空白も少ないおかげで集中が切れることなく見続けられました。勢いのあるストーリーが、勢いのあるまま駆け抜けてる感じが見ててとても気持ちいい。

映像や照明の美しさも印象的で、多用したり派手に主張したりといったことはありませんが、絵として心に残る場面が多かったように思います。

 

例えば、モルガンが語る"ある娘"のお話を影絵芝居+生身の人間(レイア)で組み合わせて表現していた部分には初見から引き込まれました。影絵の幕の裏では本役としての役者さんが演じられているのも、なんだかすごく示唆的で。

プロジェクションマッピングはあくまで補助的なもので、人間の引き起こしたストーリーはきちんと人間が演じているところに体温を感じられていいなぁと今作では特に感じました。(お前が幕を開けてお前が終わらせるのさ〜!)

 

作品を盛り上げるドーヴ・アチアさんの楽曲も素晴らしいです。1789のグルーヴ感とはまた違い、ケルト×ロックという異色の組み合わせも見事にマッチしていてどれも耳馴染みが良くて。高い音域を求められる曲が多いので歌うのが難しそうだなと素人ながらに思ったのですが、その分音が決まると最高にカッコいいので聞いていて胸が高揚しました。

 

そして、音楽をさらに彩るダンスパフォーマンスも圧巻でした。界隈内外にまで広がった「ダンダリダンダリ(正式名:誓いなさい)」や円卓の騎士たちによるダンスなど、振り付けも頭に残りやすいどころか頭にこびり付いて離れないものばかりで、真似したくなってしまうほどでした(結局覚えられませんでしたが…)

 

役者さんのキャスティングが素晴らしかったことについても語っておかねばなりません。

まずアーサー。実は王様役の浦井さんを拝見するのは初めてなのですが、こんなにも説得力を感じられることがあるんだ!?と驚きました。見た目や佇まいはもちろんなのですが、何より最後の王としての演説に心打たれました。辛酸を舐めてきた経験から見出した、もう迷いも悔いもない王の選択。あの言葉だけを切り取ったとしても、苦しみと、愛と、決意を含んだ「作品の肝(だと私が勝手に思っているもの)」を感じました。とてもよかった……

 

あとは偶然拝見する回数の多かった宮澤さんのグィネヴィア。

今作で初めましてでしたが、とっても好きでした……

グィネヴィアって、すごく難しい立場のキャラクターだと思います。アーサーに愛を誓ったかと思えば今度はランスロットに心が移って、両方を愛するにはどうすればと思い悩む。この、「思い悩む」部分が色濃く出たのが宮澤さんのグィネヴィアだったように感じられました。「裏切りたくない」という気持ちに嘘が無いのが見て取れて、個人的には好感を持てたキャラでしたね。

けれどこれはアーサーにもランスロットにも全力で愛情たっぷりで天真爛漫な小南さんのグィネヴィアを見なければ分からなかったであろう部分もあり、2人ともカラーが全く違って2人ともすっごくグィネヴィアだったのだなぁと思います。

不倫してるんだけど、どちらにも特に嫌悪感を抱かずに済んだのはものすごいこと……

 

メレアガンは和樹さんしか見れておりません。(伊礼さんは配信で見ます!)

和樹メレアガン、日によって演じ方を変えていて、好みの日とそうでない日があったのが印象的だった。定まってないとかじゃなくて、もしかしてどちらの解釈も捨てきれなかったのかな……っていう堂々ぷり。どちらも愛すべきメレアガンで、どちらも見せたい……そんな意思を感じた気がする(気がするだけ)

こういうこと初めてだったので面白かったです。念のため言っておくと、「生の芝居は日々変化する」の範疇ですよ。

配信では恐らくモルガンに侵食されて自我を失ってるようなメレアガンが見られると思うのですが、千穐楽ではモルガンの恨みがそのままメレアガンに流れ込んできて、モルガンとしての復讐も果たそうとしているメレアガンに見えました。メレアガンとしての復讐心がしっかり残ってる分、駒として使われてしまってるのがより哀れというかでもまたメレアガンとしてアーサーと剣を交えることができたのは良かったんじゃないかなとか。死に際もこれまでと違って清々しく微笑まれてて、もう全てやり切ったような、メレアガンにとってはきっとこの選択は正解だったんだなとさえ思いました。涙出てきた。

 

他にも語りたいことたくさんあるのですが、一旦ここまでで。配信見た後にまた爆発しそうになったら書きます。

再演しないわけは無いと思ってるんですけど、またこのメンバーで観たいなぁ〜、って強く思います。

情熱も熱情も迸る、良い作品でした。